八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.139


【掲載:2019/6/11(火)】

音楽旅歩き 第139回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

「5月病」? 吹っ飛ばすほどの「笑顔」を生みだして

 相変わらず忙しく飛び回っております。その折、各団の練習場での始まりに共通してお喋りをすることがあります。
きっと私の頭の中で一番気になっていることを喋るのでしょう。
話題は次回の演奏会での曲や、音楽作りの課題となる問題と深く関わっている話です。練習の前にあらかじめ計画して話し始めることは余り有りません。
一振りしてそこに生まれた響や音楽の流れに対して感じたことが〈気になっている〉ことと繋がった時に始まります。
その内容はいつも次のような結論となります。「このご時世に流されず、求めるべきもののために」ということでしょうか。

 日常生活は深くその時の政治と係わっています。
現在、もう沢山の、私から見れば「魑魅魍魎の世界」が繰り広げられているように感じます。
相対する人々が言っていることはそれぞれに「真実だと信じるからこその言葉」なのでしょう。
しかし、その「それぞれ」の距離は段々と広がっているのではないかと思うことが多くなりました。
音楽の現場ではその「それぞれ」がバラバラでなく〈一体〉となる瞬間が立ち上がったり、その一体感を持続することを目的として練習が行われます。
そうでないと「アンサンブル」という演奏にとって大切な要素が満たされません。
深く演奏者の思いを追究するとなれば、とてつもなく「個性」の違いが出て来るに違いないのですが、それを承知の上で、包括する形として〈一つ/一体〉となるものを目的とするわけです。
「演奏する本人が納得する形で喜び、それを聴いている聴衆のそれぞれがまた納得して感動を共にする」これが目的です。
それが私が求める答えです。
さて、練習での話。それは私の近況から(色々なことが起こっていて話題には事欠きません)始め、そして世の中の事件や話題になっている事柄と続きます。
実にその繋がりは見事な程に関わりを持っているのだとの内容です。
年度が替わりましたね。
新入生や新社会人が生まれます。その時期からそろそろ3ヶ月が経とうとするゴールデンウィーク後に「事」は起こります。
不登校、職場での「心身疲労」と呼ばれる症状。それらは病名をつけられて「適応障害」「出勤困難症」となります。話題の「引きこもり」もそれに関連しての現象の一つでしょう。
新しく人生を歩む人々はそれぞれに期待を持って、あるいは夢を描いての新環境。
しかし、そこで味わったものは現実の厳しさや、挫折感、思わずの壁。人生の旅立ちのこの時期にその一端をじわじわと、あるいは急に現場で見、感じてしまうのです。
私の現場、「笑顔」が消えたなら黄信号です。
笑顔が飛び交う環境が私の願う「練習場」。冗談もあれば真剣な悩み相談もある。
曲やテクニックに関しての質問、それらが「駄洒落(ダジャレ)」もある笑顔の中で行われる。
練習は一気に熱くなり、そして集う皆が一斉に目的達成への道筋を感じて心に一杯の喜びを得る。
それが私の何よりの喜びなのです。まだまだ私、飛び回ることでしょう。





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