八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.178


【掲載:2021/07/25(日)】

音楽旅歩き 第178回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

「現代の音楽 〜 Music of Our Time 〜」を終えて思う「自由」

 今月、「現代の音楽 〜 Music of Our Time 〜」シリーズVol.30を開催しました。
定期演奏会の一環です(2021/07/18〈日〉いずみホール)。
今の時代を象徴する、あるいは注目される作曲家と作品を選んで紹介するという意図を持ちます。
昨今の我が国を思う時、どうしても文化や歴史を考えてしまいます。

 私のように洋楽、それもクラシック畑で生きる種族としては長いタイムスパンでの考査を必要とし、過去と現代を繋いでの思考です。
私の演奏会シリーズでの大きな柱であり、注目もして頂いているという公演です。
今回は、「沖縄(琉球文化)」「日本文化」「フランス文化」を取り上げました。
これらを再考することは「現代」を考えるにあたって重要です。
琉球文化はそれ自体が特殊な位置を保つものですが、古い日本文化の影響が大きい。
音楽も雅楽の要素をも感じ、ゆっくりと優雅に、そして色彩的高貴さというものを漂わせます。

 先ずは第一ステージ。作品は、寺嶋陸也作曲「混声合唱のための〈おもろ・遊び〉」。
暁(あかつき)、船、宵(よい)の三曲からなっています。「暁」と「宵」はゆったりと音楽は進み、何とも言いがたい美しさを湛えながら古い言葉の音(オン)で綴ります。
感動を呼び覚ますと言いますか、身体の深い部分が震えます。それらの間に位置する「船」の言葉は全体に〈かけ声〉だけによっており、力強い海洋民族を想像させる曲に仕上がっています。
男声の響きが身体に響きます。

 第二ステージでの演奏は、千原英喜「日本古謡による女声三部合唱のためのミサ曲〈日本、とこしえに美しく〉」。
よく知られたメロディーを用いるパロディー形式での作品。〔さくら〕〔ソーラン節〕〔箏曲六段〕〔越天楽〕〔ふるさと〕〔君が代〕〔蛍の光〕のメロディーが用いられ、それがラテン語によるミサ曲になっている。
遊び心から生まれたかもしれませんが、中身はなかなかシビア、つまり手応えのある作品。ヨーロッパと日本のコラボレーションと言っても良いでしょうか。

 そして第三ステージはフランスの現代オルガン(パイプオルガン)曲をはさみ、

 第四ステージのメイン曲フランシス・プーランク「無伴奏二重混声合唱のためのカンタータ〈人間の顔〉」へと進みます。
20世紀作品として最高傑作と称せられる曲。
絶賛、有名にもかかわらず世界的にみても余り演奏されることのない曲です。
その理由は「難曲」ということなのですが、敢えてこの曲を私が選んだのは、今の時代、《これしかない!》という思いがあったからでしょう。
フランスがナチス軍に攻め入られる頃のレジスタンスの詩と音楽です。
詩はポール・エリュアール。その代表作である「自由」。
音楽はその「自由を希求する」熱い思いへと歌い上げられていきます。

 人間の誇りとして必要なもの、それは「自由」だと私は思っています。
誰にでも保証されるもの!それを妨(さまた)げるものに対して抗(あらが)おうとする気持ちが共振しているのでしょう。





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